「白い路(みち)」


 周りには白い霧のようなものが一面に立ち込めていて、その間からかすかに木立のような物が見える。
 霧に囲まれた白い道を行く黒塗りの車に乗っているのは、車のハンドルを握るシルクハット姿の男と幼い子供が一人。
 白い服に身を包み後部座席に座る男の子の腕の中には、大きめの飾りのついた箱が抱えられている。
 男も子供も一言もしゃべらず、車は淡々と道を進んでいた。

 幼い男の子は全てを知っていた。これから自分が向かう場所も、自分がここにいる理由も。
 抱えた箱からはかすかな温もりが伝わってくる。もう二度と感じる事のできない優しい温もりが。
 男の子は腕の中の箱をそっと抱きしめた。
 箱を通して伝わってくる大切な人の顔。だけど、その顔は車が進むのと共に徐々に霞んでいく。
 男の子は、それが男の子のためを思っての事だ、という事も知っていた。
 だけど、やっぱり悲しくなって、少し涙が出てしまった。
 やがて車は目的地に到着し、静かに停止した。
 運転手は外に出て車の後ろに回ると、後部座席の扉をそっと開いた。
「さあ、着いたよ。ここからは一人で行くんだ、大丈夫だね?」
 男の子は潤んだ目をこすると、「うん」とうなずいた。
 目の前には霧と木立に囲まれた白い屋根の建物。その手前の門には“天界児童園”と書かれている。
「あの……、パパとママによろしくお願いします」
「ああ」
 運転手は優しくうなずいた。
 今日からここが男の子の新しい家。次の身体に生まれ変わるまでの間暮らす場所。
 男の子は建物に向かってあるいていく。腕の中の箱が光の粒子に変わり、それはやがて男の子の背中で白い小さな翼になった。


Written by 佐倉信輔


<あとがき>
 子供ネタがなんだか多い気もしますが、やはり子供ネタです。
 いろんな事情で亡くなってしまった子供が生まれ変わるのを待つ場所、というのが舞台です。
 そこに行く途中の情景、というところですかね。w


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