「カミナリ」
扉の外は季節外れの大雨。モダンな飾りのついた扉を叩きつけるように雨粒が押し寄せる。
まるで、家全体を揺るがすかのような豪雨。
理沙は玄関先でその雨音を聞きながらうずくまっていた。
時折雷鳴が響くたび、理沙の身体はビクッと震える。
「なんだ、まだそんな所にいたのか?」
二階から濡れた頭を拭きながら、健太郎が降りてきた。
無言でうずくまる理沙に自分の使っていたタオルを投げてよこす。
「早くシャワー浴びて着替えろよ。風邪引くぞ」
理沙は動かなかった――いや、動けなかった。
不意に腕をぐいっと引っ張られた。理沙の身体はそのまま健太郎の胸の中に引き寄せられた。理沙の体の中に、健太郎の乾いた服の感触と胸の鼓動が伝わってくる。そして健太郎の温もりが……。
「また……思い出しちまったのか?」
理沙は無言でうなずいた。
荒れ狂う雨と雷は、理沙の心の奥底の深い深い傷をえぐり出す。
あの日、理沙と健太郎は二人ぼっちになった。目が覚めるとそこに広がっていたのは、見た事のない街の景色だった。ただ隣に健太郎の姿と無造作に置かれた洋服だけがあった。
両親に捨てられた、という事を理沙が理解したのはそれから大分の時間が経ち、振りだした雨の中を健太郎と二人歩き出した後の事だった。
激しく降る雨と雷鳴におびえ、そして何よりも両親に捨てられたという絶望と哀しみに押しつぶされ、理沙は健太郎に手を引かれながら泣きじゃくった。
そんな理沙を健太郎が抱きしめ、なぐさめる。濡れた身体。だけどたった一つだけ心を拠らせることのできる身体。
やがて二人はある夫婦に拾われ、その家の子供として育てられる事になった。それでも未だ、彼女の心にできた傷は癒える事なくその口を広げていた。
「大丈夫だ。世界中の全部が俺達を見捨てたとしても、俺は傍にいる。何があっても絶対にお前の傍を離れないから。お前は一人じゃないから」
健太郎は理沙が泣きやむまでずっと理沙を抱きとめてくれる。それはたった二人の、だけど何よりも強い絆があるから。
理沙は小さなくしゃみをした。
「さあ、おじさんとおばさんが帰ってくる。風邪引かないうちに着替えてしまえよ」
理沙は小さくうなずいた。
幼い頃からずっと、そしていつも理沙の傍で彼女を包んでくれた健太郎。
理沙はいつしか、健太郎にその“絆”を超えた感情を抱くようになっていた。
健太郎が理沙にとって“兄”という血の絆で結ばれた存在であっても。
それが決して許される事のない“恋”であったとしても。
二人は、世界でたった“二人”の存在。彼女にとってたった一人の、全てを預け、さらけ出し、委ねられる存在だから。
もうすぐ“パパ”と“ママ”が帰ってくる。理沙は湿った腕で涙を拭き、お風呂場へと駆けていった。
心の内に秘めた内緒の気持ちを包み隠しながら。
<あとがき>
ちょっとヤバ目な禁断の恋的SS。
アオさんのサイトの小説大会にエントリーした作品です。