「桜の花びら散る頃に」


 背が高くて、さわやかに笑う男の子。
 程なくして二人はお互いの愛を確かめあい、将来を約束した。
 時には二人海を眺めて語らったり、時にはちょっとハイカラに活写を見たり。
 幸せな時。本当に幸せな時。時の流れが止まればとさえ思った日々。
 だけども幸せな日は長くは続かず、海の向こうとの大きな戦(いくさ)が二人を引き裂いた。
 二人の別れを告げる知らせが来たのも、出会ったのと同じ桜の季節。
 桜の花びらの散る頃に届いた、地面に積もる桜よりもなお赤い一枚の紙が別れの時を告げた。
「必ず戻る」
 そう言い残して、人々の悲しげな祝福に見送られ、赤い紙共に彼は遠い場所へ去っていった。
 それ以来、毎年桜の花びらの散る頃になると私は、桜の木の下で彼の帰りを待ち続けた。
 季節が巡って桜の花びらが散る度に、桜の木の下で待ち続けた。
 戦が終わり、親の決めた男の人と結ばれても待ち続けた。
 子供が生まれ、大人になり、また子供が生まれても待ち続けた。
 桜の木が無くなっても待ち続けた。
 彼が二度と戻ってこないと分かっていてもなお待ち続けた。
 今年も桜の舞う季節が来ればまた、私はあの場所で待ち続けるだろう。
 来年も、再来年も同じように待ち続けるだろう。
 たとえこの身が病に冒されようとも、桜の花びらが散りだせば私は待ち続けるだろう。
 あの人のいる場所へゆけるその時まで。
 あの人の待つ場所へ昇るその時までずっと…。


Written by 佐倉信輔


<あとがき>
 ちょっと古めの戦時中〜戦後を舞台にしたSSです。
 切ない恋を描いてみたのですが、上手くいったでしょうかねえ。^^;


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