「悪夢の記憶を受け継いで……」


 早朝の朝もやがまだ明けきれずにたち込める真冬の朝。
 人の一部は早々と起きだし、活動を始めようとしていたまさにその刹那、地の底からその悪魔は現れた。
 悪魔の咆哮は一瞬のうちに町を瓦礫に変えた。
 人々は声を上げる暇もなく瓦礫に飲まれていった。
 私は両親を飲んだ瓦礫の怪物を前に、ただ立ちつくすしかなかった。
 そして、瓦礫の上を舐めるように悪魔の放った地獄の業火が振りそそいだ。
 炎は瓦礫と化した街をたちまち飲み込み、瓦礫に囚われた人々を悲鳴や断末魔と共に灰に変えた。
 私は誰かの手で瓦礫に囚われた両親から引き離され、安全な場所へと連れて行かれた。
 
 あの日、日本という国からいくつかの街が消えた。
 助け出された私と瓦礫と共に灼かれた両親。深く突き刺さった心の傷。
 あの日の悪夢は、崩れ灼け、滅び去った町が焼け野原に根づく草木のように蘇った後も、私の心にくさびのように残り続けた。
 あれから十二年が経ち、幼かった私は母親となった。
 この腕の中にはすやすやと眠る小さな小さな命がいる。
 1995、1.17、5:46。あの日の記憶を忘れてはならない。
 悪魔に飲み込まれた六千人の命を忘れてはならない。
 この地の底には、強大な悪魔が飢えた腹で地上に現れるその時を待っている事を忘れてはならない。
 その決意を胸に、私は腕の中の小さな命をそっと抱きしめた。
 


Written by 佐倉信輔


<あとがき>
 『能登半島地震』から『阪神・淡路大震災』を思い起こして書いたSSです。
 もうあれから12年も経つんですねえ。
 でもあの惨状は忘れられないっス。><


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