「恋墓場」


 空間に浮かぶ色とりどりのハート。
 どのハートも身体を震わせながら寂しげに浮かんでいる。
 ここは“恋の墓場”。終わってしまった恋、実らなかった恋、伝えられなかった恋の行きつく場所。
 叶わなかった恋達はここで浮かび続ける。恋しい気持ちを押し込めたまま。

 私はここの管理人。流れ着いた恋を浮かべ、供養するのが役目。
 なぐさめて、包みこんで、悲しい恋達を鎮める事。それが私に与えられた仕事。
 他人を好きになる感情、他人に恋をする感情、そんな感情はとうに私の中から消え去ってしまった。
 なぜなら、好きになる事、恋する事を失った者でなければこの役目を果たすことはできないから。
 それがこの仕事につく者の、たった一つの決まり事。

 この世でたった一人好きになった人が私の全財産を持って逃げた時、私は恋することをやめた。
 恋なんてしなければ傷つかずにすむから。好きになんてならなければあんな気持ちにならなくてすむから。
 だから私はこの場所に流れ、悲しい恋達と共に生きる道を選んだ。
 空虚なこの場所ならば誰も好きにならなくていい。誰にも恋しなくていい。
 
 今日も私は悲しい恋達をなぐさめ、鎮め続ける。
 その空間の片隅に浮かぶ、ひときわ大きな“恋”がある。
 あの日捨てた恋。ここに最初に浮かばせた私の恋。
 恋なんてとうに捨てたはず、なのに手を触れるとなぜか涙が止まらなくなってしまう。
 私の恋は今もじっと、この空間に浮かんだまま。
 いつか私の恋を鎮め、供養する事はできるのだろうか。
 そうした時私はどうなるのだろう。また誰かを恋することを思いだし、この地を後にするのだろうか。
 何も分からないまま、今日も私は恋達を供養する。


Written by 佐倉信輔


<あとがき>
 ちょっとダークなお話☆
 もし恋を供養する場所があったら、どんな場所なのでしょうね。w


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