8000HIT記念SS 「UNFINISHED」
「すまないな――。また巻き込んでしまって」
建物の影から様子を伺いながら、小柄な少女は表情を変えずに言った。
通りの向こうでは黒服の男達がせわしなく動き回っている。
「いや――、まあなんというか――、その――」
彼女の後ろにいた、これまた小柄な(彼女よりもさらに小柄である)少年は頭をかきながらそう言った。
元はといえば勝手に後を追ってしまったのは自分だし、どちらかと言うと自分が勝手に巻き込まれただけだし――。
彼女はとある総合病院の院長を父親に持つお嬢様。そして、次世代女子卓球のホープと言われるプレイヤーでもある。
かたや少年の方はと言うと、さる公立高校に通うしがない一卓球部員――。
身分違いの恋――、等という洒落たものではないが、この二人には何かと奇妙な因縁がある。
彼女の兄は少年の直接の先輩だし、なによりこの少年の才能を最初に見抜いたのは他ならぬ彼女である。
それゆえか、彼女は少しばかり少年の事が気になってしまっていた。――もちろん恋愛対象としてではなく選手として。
類稀な能力を持つ1人の選手として――。
いや、この際二人の因縁はどうでもいい。
とどのつまりが、彼女が父親の部下である黒服をまいてある場所へ向かおうとしている最中で偶然少年と出会い、なりゆきで一緒に逃げる事になってしまったと、まあつまりはそういうことである。
少女はもう一度建物の影から通りの様子を伺う。――黒服達の姿は見えなくなっていた。どうやら他の場所へ移動したようである。
少女はため息をついて少年の方を振り返った。
少年はいつもとかわらぬ大きな瞳でこちらを見つめていた。
純粋で純朴――。しかし、その奥にはとてつもない“もの”を宿す稀有な目――。
と、そこで二人の視線が交わっていた事に気づき、少女は慌てて目をそらした。そして向こうを向いたままで少年に呼びかける。
「とりあえず行ったみたい」
少年は声を発しなかったが、気配からうなずいているらしい事は察してとれた。
「――これから行くとこがあるんだけど、一緒に来る? ラケット持ってるみたいだし」
少年がラケットの入った鞄を抱えていたのは、ここに逃げ込む前に確認している。おそらく部活の帰りだったのだろう――。
少年は、今度はうん、とうなずいた。
「じゃあ、行こうか」
そう言って、少女は歩き出した。
どのみち自分の目的も“それ”。だったら少年のような“面白い相手”と戦(や)ったほうが楽しい――。
それに――。
本当は少し――。ほんの少しだけだけど、気になるのはそれだけじゃないかもだし――。
それは少年も、彼女自身も気づいていないUNFINISHEDな気持ちだけど――。
<あとがき>
8000HITのキリリク小説です。
名前は伏せていますが、中身は漫画『P2!』の二次創作になっています。
一応テーマは“アキラ×ヒロム”ってことで。(ぇ
いや、このコンビ結構好きなんですよ。(笑)
原作終了しちってちょっと悲しいです……。−w−
ちなみにタイトルの“unfinished”は英語で“未熟”・“未完成”等の意味があります。
恋も卓球もまだまだ未完成、という意味合いをこめてつけてみました。w