600HIT記念SS 「夏の夕暮れ」


 むせ返るような夏の夕暮れ。
 蝉のオーケストラをバックに、俺と夏帆(なつほ)はベンチに座っていた。
 じっとりと蒸し暑い夏の日。シャツは汗に濡れ、頬にも汗が伝う。
 だけど、二人とも黙ったまま全く動かない。
「……なあ」
 俺はたまりかねて沈黙を破った。
「本当……なのか?」
 俺の問いに、夏帆は黙ってうなずいた。

 俺が夏帆を“女”だと認識するようになったのは、いつの頃からだっただろう。
 俺と夏帆は小さい頃からお互いをよく知る関係だった。大昔の話だが、一緒に風呂に入った事もある。
 夏帆は小さい頃は活発で、男の子のようなやつだった。
 だけど、いつの頃からだろうか、夏帆は細くてしなやかな“女”へと変わっていった。
 そして“幼なじみ”は“幼なじみ”でなくなり、“恋人”という新しい付き合いが始まった。
 時には共に笑い、時にはケンカをした事もあった。
 だけど、俺の中で夏帆は次第に大きな、そして大切な存在になっていった。
 いつか――そんな事も考えていなかったわけじゃない。
 だけど、彼女の告白はあまりにも突然の事で、情けない話俺は戸惑ってしまった。
 俺はこの先、本当に夏帆を愛していけるのだろうか。
 自分の決断に果たして最後まで責任を持つ事ができるのだろうか。
 その迷いが頭の中をグルグルと回り、俺の心を惑わす。
 だけど――だけど夏帆を裏切りたくはなかった。

「おめでとう――。」
 俺は夏帆に言った。
「え?」
 夏帆は少し驚いたように俺の方を振り向く。その答えを予期していなかったかのように。
 俺は両手を夏帆の背中に回した。
 シャツを濡らす汗の感触が肌に伝わってくる。だけど、不思議と嫌な感じはしなかった。
「産めよ」
 と俺は言った。
「決めたよ。俺はお前が好きだ――愛してる。だから、結婚しよう」
「でも、いいの? 私なんかで本当に――」
「ああ。どこまでお前を幸せに出来るかわからないけど、お腹の中の子供のためにもがんばるからさ」
 夏帆の腕が俺の背中に伸びてくる。俺と夏帆はそっと抱き合い、唇を重ねた。
 触れる唇の感触が、夏帆の温もりが俺の中に伝わってくる。
 夏帆のお腹の中には新しい命が宿っていた――俺と夏帆の子供が。
 まだ名前はないが将来生まれてくる俺と夏帆の子供よ、俺はお前に誓おう。
 これから先、お前とお前の母親――夏帆を力の限り幸せにすると。
 寄り添う俺達を、夏の夕日が静かに見守っていた。
 蒸し暑い夏の夕暮れの出来事だった――。


Written by 佐倉信輔


<あとがき>
 600ヒットのリクSSです。
 ある意味きわどい内容……なのかなあ。(ぉ
 どうしよう……。PG指定するべきなんでしょうか。^^;


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