7000HIT記念SS 「騎士団長の憂鬱」


「せいやあっ!」
 威勢のいい声と共に剣がふりおろされる。
 ガードすべき右腕は剣と共に直前の攻撃で跳ね飛ばされている。
 剣は正確に急所――首の付け根に向けて振り下ろされ、紙一重でその動きを止めた。
「――参りました。またお強くなられましたな、姫様」
 そう言って剣を腰の鞘に納め、うやうやしく一礼する。
「まだまだ、こんなものではだめだ。しばらくすれば余(わらわ)も新たな領地を奪う為に国を出ねばならぬ。目指す北のフォーミカの守りは特に手ごわいと聞く。余(わらわ)はもっと強くならねばならぬ」
 姫君はそう言って剣を戻し、くるりときびすを返した。
 新たに女王となる者は自分ひとりの力で敵の領地を占領し、新たな国家を築かなければならない――。それが自分達ポリヤガス帝国に代々伝わる掟なのだ。
 姫君が狙っているのは、ここから北に数百メートルの所にあるフォーミカ共和国の開拓した領地である。フォーミカの領地の中でも特に守りの堅い場所だと風の噂で聞いている。
 姫君が侵攻に成功して敵の女王を打ち取れば、領地は占領され姫君は新たな女王となる。生き残ったフォーミカの兵や民は全員例外なく奴隷となり、労役に就かされる事になる。もちろん失敗すればすなわち死、だ。
 どちらにしても気が滅入る――。そう考えていたところへ、若い兵隊が駆け寄ってきた。
 兵隊の興奮した様子に、気分はますます重くなる。
「騎士団長殿、出撃の準備が整いましてございます!」
「――分かった。では十分後に出撃する。今回の標的(ターゲット)は南のフォーミカだ。目標は子供と赤子、合わせて30。全員油断せぬよう伝えておけ」
「ハッ! 了解しました!」
 若い兵隊はそう言って再びあわただしく駆けだしていった。
 姫君との稽古の後に気をつく暇もなく、次は兵隊達をひきつれて出撃しなければならない。
 目的は南にあるフォーミカの領地を襲撃し、将来的に奴隷とするフォーミカ族の子供や赤子を奪うこと。
 “奴隷狩り”はポリヤガス騎士団の重要な任務の一つだが、何度経験しても気が重い。
 なにしろ、多種族の領地を襲撃して彼らの子供や赤子を無理矢理奪わなければならないのだ。――もちろん双方にどれだけの犠牲が出ようとも――。
 争いのない平和な世界になればいい――。そう思うが、自然の決めた掟に逆らう事は種族の滅亡を意味している。
 自分達は自然という神の決めた掟に逆らう事はできないのだ――。
 そう言い聞かせ、騎士団長は今日も出撃する――。


Written by 佐倉信輔


<あとがき>
7000HITのキリリク小説です。
擬人化物で、アリ(サムライアリ)の擬人化物となっております。
サムライアリはクロヤマアリ等、他のアリの巣を襲って蛹や卵を強奪し、奴隷として働かせる習性があるんですね。
しかも、新たな女王アリは単身でクロヤマアリの巣に乗り込んでクロヤマアリの女王を殺し、そのコロニーを乗っ取ってしまうという物騒な習性も持っています。
ちなみに侵入の際の戦闘で生き残ったクロヤマアリの兵隊アリは全てサムライアリの女王に従うようになってしまいます。
<サムライアリの女王はクロヤマアリの女王を殺した後、そのフェロモンを自分の身体に纏わせるのだとか。
そういった自然の摂理を描いたお話でした。
余談ですがアリとハチって同じ系統の昆虫らしいです。
そういえば、アリもハチも似たような形態のコロニーを作りますね。w


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