200&666&800HIT記念SS 「あの花のように」


 町のはずれにある丘に、そこから町を見下ろすかのようにたたずむ一本の木がある。
 樹齢数百年を数えるという、しだれ桜の古木。
 気の遠くなるような長い年月、眼下に広がる街を見つめ続け、そこに生きる人々を見つめ続けてきた桜。
 春には美しい花をつけ、多くの人がその美麗な姿に魅せられ集まってくる。
 この桜の木には、昔からささやかれる伝説が存在する。
 桜吹雪の舞うこの木の下で将来を誓った二人は必ず結ばれる、と言うちょっと甘い恋の伝説。
 だけど、この桜にまつわる真の伝承、この桜が持つ真の記憶を知る者は限りなく少ない。
 かくいう私も、小さい頃ひいお祖母ちゃんに聞かされたという話。
 その内容はこうだ。

 ――戦争中、この町は何度となくアメリカ軍の空襲にみまわれた。
 そしてその日、それまでで一番大規模で激しい空襲が街を襲った。
 家も店も、学校も施設も、全てが紅く立ち昇る炎に飲み込まれ、消えていった。
 だが、桜の木だけは激しい空襲の中でも燃える事はなかった。
 それどころか、煤一つ付く事はなかったという。
 そして桜は、業火から逃げ惑う人々を抱き護った。
 ひいお祖母ちゃんを含め、多くのひとが桜のおかげで助かったという。
 ひいお祖母ちゃんがお祖母ちゃん――つまり私のひいひいひいお祖母ちゃんにあたる人から聞いた話によると、この桜はこの辺りで戦があるたびに、焼け出されたり追われたりした人々を救い、護って来たのだという。

 弱き人々を護ってきた桜の木。
 だけどまた、恋を実らせる桜であることも真実。
 だって、ひいお祖母ちゃんは命からがらたどり着いたこの桜の木の下で、将来私のひいお祖父ちゃんになる男の人と出会ったのだから。
 護りの桜、恋の桜――。
 様々な顔を持つ不思議な桜。
 だけど私にとってこの桜は、思い出の桜。
 嬉しいことや楽しいことがあった時。辛い事や悲しいことがあった時。
 私はいつも桜に話しかけていた。
 だから、私にとってこの桜は思い出の桜。
 色々な思いでの詰まった大切な桜。
 今年その桜は、高齢化と枯死が進み限界を向かえ、撤去される事になった。
 今、丘の上にはあの桜の木は無い。
 だけど、あの桜が残した種――撤去された桜から採取された桜の若枝がまるで息子のように、その跡地に植え付けられている。
 若枝が母親(か、それとも父親?)の桜のように花をつけ、人々を見守るようになるのは何十年か先の話だろう。
 その時、私はどうなっているだろうか。それは今の私には分からない。
 けど、私はあの桜のように、皆を――その頃にはいるかもしれない子供や孫達を見守り、温かく包めるような、そんなふうになりたいと思った。
 私はあの桜が大好きだったから――。


Written by 佐倉信輔


<あとがき>
 200&666&800ヒットのリクSSです。
 一応桜をテーマに書いてみたのですがどうでしょう……。
 なんとなく『BJ』の“あの話”的になってしまいました。(謎)


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