100HIT記念SS 「ユウキのおまじない」


『窓から見える枝の葉が全部落ちた時、命はつきる』
 なんていうのはベタな作り話の中だけのことで。
 窓から見えている枝の葉が全部落ちるのなんて、もう何度も見ている。
 いっそ本当に木の葉と一緒に命が終わってくれればね、とまでは思わないけど。
 生まれつきの病気でずっと、この部屋の中で管とコードにつながれて過ごす毎日をもう数えるのもうんざりするくらいの時間過ごしている。
『手術すればよくなる』
 と、お医者の先生は言った。
 けどシュジュツして身体を切り開いて、無事でいられるだろうか。本当にビョウキは直るだろうか。
 いつも一番悪い事ばかりを考えてしまい、心の中は怖い気持ちでいっぱいになってしまう。
 だからどうしても首をうん、と縦に振る事が出来ない。
 心には堅く鍵がかかり、その奥底に閉じこもってしまう自分がいる。
 何もしないことでただ逃げ続ける日々。
 無情な日々が続く中である人物と出逢った。
 年の離れた従兄弟。サッカーがとても上手い、憧れのお兄ちゃん。
「手術が怖いんだって?」
 うん、とうなずいたその頭に温かいぬくもりが触れる。
「よーし、それじゃあ勇気のでるおまじないを教えてやるよ」
 ユウキのでるおまじない。“ユウキ”の意味はよく分からなかったけど教えてもらった。
 まず、紙にお願い事を書くんだ。サッカーが上手くなりたい、とか、病気を直したい、とかね。その時、お願い事がかなった自分の姿を思い浮かべながら書くんだ。そしたらその紙を袋か何かに入れていつも持っているんだ。絶対に自分の体から離したらダメだよ。そして勇気がほしい時は、それをぎゅっとにぎりしめるんだ。そうしたらお願いがかなった自分の姿が浮かんできて勇気をくれるんだ。お願い事をかなえるための勇気をね。
 本当かなあ。だけどもしそれで本当にユウキというやつがでるのなら…。
 さあやってごらん、と言われるままに紙にお願い事を書いた。ビョウキの直った自分、外で元気に遊ぶ自分の姿を思い浮かべながら。
 お兄ちゃんは願い事を書いた紙を小さく折ると、小さなひも付きの布の袋にそれを入れて、優しく首にかけてくれた。
「お願いがかなうまでずっと持っているんだよ。そして、お願いがかなったら紙ひこうきにして空に飛ばすんだ。おまじないを空に返すんだよ。いままでありがとう、そしてたくさんの人にこの“勇気”が届くように、ってね」
 そう言い残してお兄ちゃんは帰って行った。
 ためしに少し袋を握ってみた。なんだろう、手のひらに温かい何かが伝わってくるような気がする。これがユウキなのかな?
 そしたら、あれほど振れなかった首を縦に振る事が出来た。すごく不思議。ユウキってなんだかすごい。
 そうしていよいよシュジュツの日。もちろん手にはあの袋を持っていた。
 目の前に待つシュジュツのことを考えると、やっぱりちょっと怖い。
 だけど袋を持つ手を握り締めると、なんだか不思議ドキドキが少し落ち着いてくる。やっぱりユウキってすごいや。
 そして扉の向こうへ運ばれて行く。ユウキと一緒に、願いをかなえるために。

 今、ユウキは右手の中にある。その姿を紙飛行機に変えて。
 手術は成功して願いをかなえた自分がここにいる。
 今度はこの手の中のユウキをほかの皆へ渡す番。
 僕のユウキがたくさんの人のユウキになりますように。
 願いを込めて思いきり右手を振った。放たれたユウキは大空へ向かって羽ばたいていった。
 願いを持つ皆に勇気を与えるために。
 


Written by 佐倉信輔


<あとがき>
 100ヒットのリクSSです。
 ほのぼの系の作品ですね。−w−


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