第八章 モデル小説「友達っていいな」


例にあげた設定を用いて書き下ろした作品がこちらになります。
なにやら邦話と洋話のテイストが混じっているような気もしますが、フィクションの世界という事でその辺はご容赦を。^^;


「友達っていいな」


 太郎はたいそう臆病者で、いつも村はずれの家で畑を耕しながら暮らしていました。
 太郎は村の外で行き倒れになっていたところを助けられ、村長の許しを得て村はずれに住んでいるため、この村では"よそ者"でした。
 そのため村人たちはいつも、"よそ者"の太郎を避けていました。
 なので太郎はいつも一人ぼっちでした。
 ある日、太郎は急に村長に呼ばれました。
 太郎はおっかなびっくり、村人たちの目線を気にしながら村の真ん中を抜け、村長の屋敷に向かいました。
 村長の屋敷は村の中でも一番大きく、とても立派なお屋敷でした。
 太郎はお屋敷の観音開きの扉を恐る恐るノックしました。
 しばらく間があって扉が開き、村長が顔を出しました。
 村長は、太郎を家の中へ招き入れました。
 家の中には豪華な調度品が並び、村長が裕福である事が見てとれるようでした。
 村長は居間のイスに腰掛けると、太郎を向かいのイスに座らせました。
 そして、テーブルの上で手を組むと静かにきりだしました。
「太郎よ。実はな、森の奥にワルーという輩が住みついていてな。森に狩りに行った村人が襲われて怪我をする事件が度々起こって困っておるのだ」
 太郎はいぶかしげに村長を見つめました。
「そ、それがオラとどうかんけいがあるのでしょうか?」
「実はな、お前さんにそのワルーを退治してもらいたいのだ」
「え、ええっ!」
 太郎は驚いてかぶりを振りました。
「そっ、そんな! オラなんかには無理ですよ!」
「お告げがあったのだよ。『村はずれに住んでいる男がワルーを倒せるたった一人の勇者である』とな。だからお前しかおらぬのだ。行ってくれるな」
 太郎は半ば無理矢理にワルー退治を任されてしまったのでした。

 太郎は仕方なくワルーの住む森へ向かいました。
 森は木々に覆われていて薄暗く、恐ろしげな雰囲気が漂っていました。
 時折響く鳥の鳴き声に身をすくめながら、太郎は森の奥へ進んで行きました。
 やがて、太郎の目の前に大きなお城が見えてきました。
 どうやら、ここがワルーの城のようです。
 薄暗い森の中にたたずむ城は不気味な雰囲気を漂わせ、太郎を飲み込もうとしているかのようでした。
 太郎は震える声で叫びました。
「で、出て来いワルー! お、オラが退治してやるぞ!」
 しかしお城からは何の応答もありませんでした。
「だ、誰もいねえのかな……」
 太郎はそっとお城の門に近づいてみました。
 その時、お城の門が開いて奥から一人の男がゆっくりと現れました。
「誰だ、おめえは?」
 真っ黒な服に身を包んだ大柄な男は、じっと太郎を見据えて言いました。
「お、お前がワルーだな!? お……オラは、お前を退治しにきたんだ!」
 太郎は声を震わせながら言いました。
「退治ィ!? ははあ、村長の野郎とうとう俺っちを殺そうって腹だな。悪ィがお前なんぞにくれてやる命はねぇ。とっとと失せな!」
 そう言うと、ワルーは手にしていた金棒を思い切り振り下ろしてきました。
 太郎は驚いて飛び退きました。金棒は空を切り地面を叩きつけました。
 太郎は怖くて逃げ出したい気持ちでいっぱいでしたが、ここで逃げ帰ったら村に住まわせてもらえなくなると思ったので、手に触れた棒切れを持って震えながら構えました。
 太郎はえいやあっとワルーに切りかかりました。
 しかし、太郎の攻撃はあっさりとワルーにかわされ、太郎は襟首をワルーにつかまれてしまいました。
 ワルーは太郎を引き起こして金棒を振り上げました。
 が、次の瞬間目を丸くしてすっとんきょうな声を上げました。
「ありゃ!? おめぇ、村はずれに住みついてた太郎でねぇかあ」
 太郎は驚いてワルーの顔をよく見ました。
「あ、あんたひょっとして与作さん……か?」
 なんとワルーの正体は以前村に住んでいた、猟師の与作だったのでした。

 それからしばらくの後、太郎と与作は与作の城―ではなく木々に囲まれた小山をくり抜いて作った粗末な家の中にいました。
 薄暗い闇と生い茂る木立が小山をお城のように見せていたのでした。
 ボサボサの髪の毛とひげでに顔を覆われた与作は、豪快に笑いながら森の中で獲った獣の肉で作ったスープを振舞ってくれました。
 猟師らしい粗野な味でしたが、それはとてもおいしく感じました。
「おめぇも災難だったなぁ」
 与作はスープにぶち込まれた肉を豪快にほおばりながら言いました。
「けどよ、与作さんはなんでこんなところで暮らしてるんだい?」
「こったらとこで村人もよそ者も関係ねぇで、与作"さん"なんて堅苦しい言い方しねぇで"与作"って呼んでくれや」
 与作はまた豪快にガッハハと笑った。
「俺っちはよ、村長んとこの高ぇツボだかを盗んだって言いがかりをつけられて村をおん出されたんよ」
 それにしてはあまり落ち込んでいないようにも見えたのですが…。
「じゃあ、村長はなんでオラにあんなウソをついたんだ……?」
 太郎は考え込みました。
 すると、与作は険しい表情になって言いました。
「あの村長は傲慢な野郎でな、いつも自分の事しか考えやがらねぇ。自分に従わねぇやつはどんな手を使ってでも追い出そうとするのさ。俺っちもよ、『よそ者と仲よくしたり優しくするな』っちゅう村長の命令に反対したらこのざまってわけさ」
「そ、そんじゃあ与作はオラのために村を追い出されたのか?」
 太郎の顔は見る間に青くなっていきました。
「す、すまねぇ。よそ者のオラなんかのために。オラさえ村に流れ着かねば……」
「気ィにすんなって!」
 与作は太郎の肩をドン、と叩きました。
「おめぇが悪いわけでねえべ。悪いのはあの傲慢な村長だで。それにな、俺っちは村をおん出されて内心ほっとしたんだ。ここでは何もかもが自由だ。村長の顔色をうかがう必要もねえ。自分の意思で生きられる」
 そう言う与作の顔は、本当に幸せそうな感じがしました。
 太郎は与作の顔をじっと見つめていました。
「そうだ、おめぇもよかったらここに住まねぇかい?」
 不意に与作が太郎に呼びかけました。
「お、オラがか!?」
「そうよ。村長がおめぇを選んだのは"神のお告げ"なんかじゃねえさ。あいつはおめぇの畑づくりの才能に目をつけたんだ。そして畑を作るだけ作らせたら俺の退治にかこつけておめぇを村からおん出したのさ。きっと今頃おめぇの家も畑も村長に奪われてるだろうぜ」
 太郎は村長の有無を言わせぬ目を思いだしていました。
 今考えると、いやがおうでも太郎を村の外に出そうとしているように思えました。
「どうだ? ここで一緒に暮らさねぇかい?」
 与作はもう一度尋ねてきました。
「ほ、ほんとにオラなんかがここで暮らしていいのか?」
「あたぼうよ。おめぇだって流れ者だから他に行くあてなんてねぇんだろう?」
 太郎はじっと与作を見つめました。
 与作はひげだらけの浅黒い顔をほころばせて、手をさしだしてきました。
 太郎は少し迷いましたが、やがてゆっくりと与作の手を握り返しました。
 そして太郎と与作は"友達"になり、一緒に暮らすようになりました。
 太郎は家の近くを切り開いて畑を作り、与作は森で獲物を狩り、二人は協力し合って暮らすようになりました。
 太郎にとっては生まれて初めての"友達"でした。
 太郎はこのまま幸せな日々が続くと思っていました。

 太郎が与作と暮らすようになってしばらくの月日がたちました。
 太郎と与作はすっかり打ち解け、いつしか"親友"と呼べる仲になっていました。
 そんなある日、太郎と与作がいつもどおり小山の家で食事をしていると、何やら外が騒がしい事に気がつきました。
 小さな窓から二人が顔を出してみると、なんと小山の家の周りを武器を持ち鎧兜で武装した兵士達が取り囲んでいたのでした。
「な、なんだこりゃあ!」
 太郎は驚いて声を上げました。
「村長だ」
 と与作は言いました。
「あの野郎、俺達をおん出すだけじゃ飽きたらずに殺しに来やがったんだ!」
 その時兵士たちの隊列が二つにわれ、その奥から武装した村長がゆっくりと現れました。
 村長は悪意をにじみださせた笑みを浮かべて言いました。
「その通りだよワルー、いや与作君。私はね、君達のようなクズどもが私の目に付くところにいるのが……、いやこの世に存在していることが許せないのだよ。だからね、君達には死んでもらう事にしたよ」
 そして村長は兵士たちの方に向きを変えて言いました。
「者どもよ、こやつらは村をあらす山賊だ。われらが神にかわって裁きを与えよ!」
 兵士たちはいっせいにときの声を上げ、小山の家に向かって侵攻を開始したのです。
 たくさんの軍勢に小山をくり抜いた粗末な家等ひとたまりもありません。
 たちまち小屋の中まで兵士達に突入され、太郎と与作はあっという間に追い詰められてしまいました。
 兵士達の先頭に立つ村長はますます意地悪そうに微笑んで言いました。
「さあ、もう逃げ場はないぞ。観念したまえ」
 その時太郎はさっと村長の前に躍り出ました。そして村長に向かって言いました。
「殺すならオラだけ殺せ! オラがいなければそれで済むんだろうが!」
 すると、今度は与作が太郎を押しのけて前に出て、そして言いました。
「いや、殺すなら俺っちだ! おめぇが殺してぇのは盗っ人の俺っちだけだろうが!」
「やかましい!」
 村長はイライラして言いました。
「私はな、そういう友情ごっこが一番嫌いなのだ。友情なんぞ何の足しにもならん。見ていてへどが出るわ!」
「違う!」
 太郎は叫びました。
「友情はそんな軽いもんじゃねえ! お互いを友達だと思うから信頼できる。友達のためだから頑張れる。友達だから協力し合える。友情は、お前の家にあるどんな宝より素晴らしいんだ!」
「ふん、ほざけ!」
 村長は吐き捨てるように言いました。
「だったら、望みどおり二人仲よくあの世に行くがいい!」
 村長の合図で兵士達が一斉に剣を振り上げました。
 もうダメだ。二人がそう思った時、突然あたりがまぶしく光り輝きました。
 その場にいた人間たちは、思わず目をつぶりました。
 やがて光が収まって皆は目を開けました。そして、あっと驚いたのです。
 なんと、さっきまでそこにいた村長の姿はなく、そこには一匹の狸が倒れていたのです。
 兵士たちも太郎と与作も、何がなんだか分かりませんでした。
 すると狸の頭からなにやら黒い煙のような物が噴き出しました。
 煙は一つに固まって小さな雲のような形になると、小さくなってやがて消えてしまいました。
 兵士たちは指揮官である村長が消えてしまったため、わけが分からないまま返って行きました。
 しばらくして狸が目を覚ましました。
 狸は驚いて飛び上がると、部屋の隅に逃げ込んでガタガタと震え、そして言いました。
「ひええぇ、すいません許してください! 悪気はなかったんです! あの黒い霧のような物が突然私の頭の中に入ってきて、それから何がなんだか分からなくなって気がついたら村長になり変わってあんな事をしていたんです! 自分でも止められなかったんです! だからお願いです、狸汁だけはどうか勘弁してください!」
「おいおい落ち着けよ。こちとらわけがわかんねえんだ、問答無用で獲って喰おうなんざ考えてねえからよ」
 与作がなだめるように言いました。
「けど、あの黒いのは一体何だったんだろうなあ?」
 太郎は不思議そうに言いました。
「私にも分かりません。森の中を散歩していたら突然現れて頭の中に入ってきたんです」
 狸はまだおびえているようでした。
 その時また部屋の中が明るくなりました。それはだんだんと形を変え、やがて一人の女性の姿になりました。
「あの黒い霧は人間たちの"悪い心"が集まった物です」
 女性は三人にむかって語りかけてきました。
「あ、あなたは……?」
 太郎はおそるおそる尋ねてみました。
「私は天の世界より使わされた者。あなた方の言葉では確か……"女神"と言うのだったかしら」
「め、女神様だって!? こいつはたまげた! で、"悪い心"てぇのは一体何なんですかい?」
 女神は三人に語り始めました。
「あれは、人間が他人を憎む気持ちや恨む気持ち、いがみあう気持ちが集まり一つになった物です。"悪い心"が他人や動物に乗り移ると、その者は正気を失い人を憎み、いがみあい、邪悪な心に支配されてしまうのです
「そ、それではその"悪い心"が私に乗り移って悪い事をしていたのですね!? ああ、なんという事だ!」
 頭を抱えてうずくまる狸を太郎はなぐさめました。
「お前さんが気にする事はないさ。お前さんだって操られていたようなものなんだから」
「しかし、それが一体どうして突然消えちまったんだろうな?」
 与作の疑問に女神は答えてくれました。
「それは、"悪い心"があなた達のお互いを思いやる"清い心"に触れたからです。"悪い心"は"清い心"に弱いのです。ただし、完全に消してしまうにはよっぽど強い"清い心"の力が必要なのです。"清い心"が十分な力を持っていないと、逆に"悪い心"の憎悪をかきたててしまいます。あなた達の真に"清い心"が"悪い心"に打ち勝ったのです」
「な、なんか照れるなあ」
 太郎と与作は頭をかきました。
「さあ、そろそろ元の村にお帰りなさい。他の村人達も"悪い心"の影響から開放されている頃でしょう」
「はい。あれ? でも最近この村に流れてきたオラはともかく、なんぜ与作は"悪い心"の影響を受けなかったんだ?」
 太郎は首を傾げました。女神は優しく微笑んで答えました。
「それは、与作が他人に流されない"強い心"を持っていたからです。"悪い心"の影響をはねのける"強い心"を」
 そうなんだ、と太郎は感心して与作の方を見ました。
 与作はまた照れて頭をかきました。そして照れを隠すように狸に向かって言いました。
「おう、ところで狸よう。おめぇの名は何てんだ?」
「わ、私ですか!? 私はポン吉と申します」
「そうか、ポン吉よう。おめぇどこか行くあてはあるのかい?」
 ポン吉はキョトンとして与作を見ました。
「は、はぁ。私は見ての通り野生の狸ですから……」
「なんつーか……、こんな形だが縁は縁だしよ、もしよかったら俺たちと一緒にこねえかい?」
 ポン吉は仰天しました。そして猛烈な勢いで首を振りました。
「め、めっそうもない! 私は操られていたとは言え、みなさんにひどい事ををしたのですよ!? そんな私がみなさんと一緒にだなんて。 それに村人達が私を受け入れてくれるわけありませんよ」
 太郎は首を振って言いました。
「そんなことないさ。悪いのはあの"悪い心"と、そしてそれを産みだしたオラ達人間さ。だからオラ達はポン吉が悪いなんてこれっぽちも思ってないさ。それに、きちんと話せば村人たちもわかってくれるさ」
 与作もうんうん、とうなずきました。
 ポン吉はまだ力なく首を振っていましたが、二人はとりあえずポン吉も連れて村に変える事にしたのでした。
 そして、三人は女神に別れを告げ村へと戻りました。
 "悪い心"の影響が消えた村人たちは、三人を温かく迎えてくれました。
 それから太郎と与作、そしてポン吉の三人は村人たちと共に、いつまでも仲良く暮らしたのでした。

<おしまい>


Written by 佐倉信輔


昔話テイストという事で、文体は敬体調にしてあります。
例話の割に長くなってしまいましたが…、まあこんな感じです。^w^;


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