第四章 より読みやすくするために 〜基本編〜


 ここから先では、より読みやすい小説を書くためのポイントを学習して行きたいと思います。
 基本的な決まりごとから、ちょっとしたテクニックまで覚えておいて損はない事ばかりですよ。


小説と漫画の違い

 まず最初に、同じ“読む物”でも小説漫画では何がどう違うのか、という事を学習しておきたいと思います。
 まず決定的に違うのは、“メインとなるのが活字であるか絵であるか”という点です。
 漫画や絵本の場合、中心となるのは絵でありセリフや擬音の文字は絵の補足や説明を行う、というのが主なスタンスです。
 小説の場合はこれがまるっきり逆の立場になります。
 つまり、小説においては活字がメイン。子供向けの本などでは挿絵の入っている物もありますが、原則として書く側はほぼ文字のみでキャラクターから情景に至るまでを表現しきらなければなりません。
 それだけに小説では、文章表現力が大きなウエイトを占めます。
 また、漫画における絵の構成同様、文章の構成によって読み手に印象を与える事も必要になります。
 それを踏まえた上で、小説を執筆する際の基本とテクニックについて学習していきましょう。


セリフの基本1…セリフとキャラ名

<例1>
太郎「悪いやつめ、退治してやる!」
ワルー「なにおー!」

 まず上の例1を見てみてください。
 ……どう感じましたか?
 なんだか見づらい感じですよね。
 これはセリフのカギかっこ(「」)の前にキャラ名を表記した、いわゆる脚本型の書き方をした物です。
 脚本の場合は単純にセリフを覚えるための物なので、これでも十分事足ります(もちろん感情表現等のために注釈やト書きが入るのですが)。
 しかし、小説の場合は勝手が違います。
 小説ではセリフや文章を通して情景や感情を読み取ってもらわなければなりません。
 これでは、周りの情景が分かりませんし文脈自体が単調になってしまいます。
 なので、小説ではセリフの前にキャラ名や文章を挟んではいけません
 現代小説の手法では、短いセリフ(「うん」とか「おはよう」等)の場合は行中に挟みこむ事もありますが、基本的にはセリフの前に文字を挟んではいけません。
 例1をこの決まりにそって修正するとこんな感じになります。

<例1(修正済)>
 太郎はワルーを見すえていった。
「悪いやつめ、退治してやる!」
「なにおー!」
 ワルーはさっと身構えた。

 どうですか? なんだか見やすくなったしどんな情景なのかがなんとなく分かるようになりましたよね?
 たったこれだけのことでも見やすさがかなりアップするんですよ。w


セリフの基本2…セリフ内の句読点

<例2>
「森に住むワルーを退治してくれんかのう。」
 村長は両手を合わせて太郎に頼んだ。
「ええっ、でも僕なんかに…。」
 太郎は驚いて村長の顔を見た。

 早速例2を見てみてください。
 一見すると別にどこも悪いところは内容に見えます。
 実際、昭和初期くらいまでの古い時代ではこれでも問題はありませんでした。
 しかし、現在確立されている形式ではセリフの文末、つまりカギかっこ(「」)閉じる直前の文末には句読点(、や。)を打たないというのが決まりになっています。
 これはほとんど見栄えの問題であって文法うんぬんの話ではないのですが、一応現代小説の形式ではそういう事になっていますのでとりあえず従っておきましょう。(ぇ
 決まりにそって修正すると下のようになります。

<例2(修正済)>
「森に住むワルーを退治してくれんかのう」
 村長は両手を合わせて太郎に頼んだ。
「ええっ、でも僕なんかに…」
 太郎は驚いて村長の顔を見た。

 見た目的によくなったような感じはしますよね。
 ちなみにダッシュ(―)や三点リーダ(…)、感嘆符(!)や疑問符(?)は打ってOKです。
 あくまでも句読点だけに適用されるルールだという事を覚えておいてください。


セリフの基本3…カギかっこ(「」)と二重カギかっこ(『』)

<例3>
 本の表紙には「村民名簿」と書かれている。
 村長はそのページをパラパラとめくりながらいった。
 「巫女殿は「最初にこの家を訪れた者が勇者だ」とおっしゃられたのじゃ」
 『なんですとぉー!』
 太郎はぶったまげた。

 はい、続いてはカギかっこ(「」)と二重カギかっこ(『』)についてです。
 まず上の例3に注目。
 なんだかわけのわからない文章になってますよね。
 それはカギかっこ(「」)の使い方がめちゃくちゃになっているからです。
 カギかっこの使い方にもいくつかの決まりごとがあります。

1.通常のセリフはカギかっこ(「」)でくくる
2.本のタイトルは二重カギかっこ(『』)でくくる
3.セリフの途中で他のキャラのセリフを引用する場合は二重カギかっこを使う
4.過去のセリフを回想として使う場合は二重カギかっこを使う

 おおまかにはこんな感じです。
 基本的にこれ以外の括弧(かっこ)は使用しません。
 ただし、キャラクターの心の中のセリフや補足事項をあらわすのに普通の“()”を使ったり、特定の単語や短文を強調するために二重引用符(“”)を使うなど、文脈に合わせて使い分ける場合もあるのであくまで基本事項として覚えてください。
 これを踏まえて例3を修正してみましょう。

<例3(修正済)>
 本の表紙には『村民名簿』と書かれている。
 村長はそのページをパラパラとめくりながらいった。
 「巫女殿は『最初にこの家を訪れた者が勇者だ』とおっしゃられたのじゃ」
 「なんですとぉー!」
 太郎はぶったまげた。
 本のタイトルである“村民名簿”は二重カギかっこに、村長のセリフ中の「」は巫女のセリフの引用なので二重カギかっこに直しました。
 そして最後の太郎のセリフは普通のカギかっこに直します。
 これで括弧の使い方が正しくなりました。


改行の基本

<例4>
 森にはうっそうと木が茂っている。日の光はさえぎられていて、
 いまにも何かが出てきそうな感じさえする。
 太郎はおそるおそる
 その先へと進んでいった。時折響く鳥の声がいっそう恐怖を引き立てる。

 早速例4を読んでみましょう。
 どうですか? 読みにくいですよね。
 原因は改行の仕方にあります。
 小説では基本的に改行は特に必要のあるとき意外はしません
 ウェブ上で小説を公開する場合、ほとんどの場合CGIやスタイルシート等の設定によって一定の幅で自動的に改行するように設定されています。
 なので意図的に段落を変える場所以外では改行をする必要はありません。
 ただし、ウェブ上では横書きが通例ですので普通の本のような縦書きに比べると、少し多めに改行を入れないと見にくくなる場合もあります。
 また、改行が少なければ文章は重厚な印象になり、多めだと文章はコミカルで軽い印象になります。
 そのあたりは発表する場や執筆する物語のイメージを考慮して、臨機応変に調整するといいでしょう。
 ところで、これはあくまで通常の文章における形式です。
 セリフの場合は少し事情が異なっていて、原則改行禁止です。
 長ゼリフの場合は読みやすくするために段落を設ける場合もありますが、基本的にはセリフは改行無しで書きます。
 以上を踏まえた上で、例4を修正してみましょう。

<例4(修正済)>
 森にはうっそうと木が茂っている。日の光はさえぎられていていまにも何かが出てきそうな感じさえする。
 太郎はおそるおそるその先へと進んでいった。
 時折響く鳥の声がいっそう恐怖を引き立てる。
 段落で改行する場合は原則的に読点(。)を基準に改行を行います。
 段落とは“一つの主題を持ってまとまった文のかたまり”なので、必ず読点ごとに改行する必要もありません。
 例えば一つの情景を説明するのなら、間にいくつか読点をはさんでいてもそれで一つの段落ということになります。
 このどこで改行するかという判断は、たくさん書く事で自分なりにつかんでいくしかありません。
 他の小説等を参考にする等して、自分なりの基準を見つけていきましょう。
 なお、段落で改行した後は必ず一文字分開けて次の文を書き始めましょう
 段落が変わった事を知らせる目印なので、忘れないようにしましょう。
 また、シーン自体が変わる時は一行空欄を開ける、という決まりもあります。
 段落の決まりと合わせて覚えておきましょう。


三点リーダ(…)とダッシュ(―)

<例5>
 やばい・・・やばすぎる。
 太郎はゆっくりと−しかし心では思い切り焦りながら後ろへ後ずさった。
 ワルーは手にした金棒−いかにも重厚そうで殴られると痛そうな代物だ−を構えて、ジリッジリッと太郎を追い詰めていった。

 例5の文章はこのような感じです。
 さて、この文章ではどこがいけないのでしょう。
 ポイントは余韻を残すために使われる“点々”と、文章のつなぎや補足説明の挿入に使う“棒線”です。
 例5ではそれぞれ、中点(・)とハイフン(−)を使っています。
 しかし、中点は物の名前等を列挙する時、ハイフンはマイナス記号として使われる記号なので、このような場面で使うと混同される恐れがあります。
 そこで、小説の決まりとしては余韻を残す場合には三点リーダ(…)、文章のつなぎや補足説明の挿入にはダッシュ(―)を使います
 ちなみに三点リーダは“てん”、ダッシュはキーボードのハイフンか“だっしゅ”と入力して変換すると出てきます。
 記号にも一つ一つ意味があるので、きちんと使い分けないといけない、ということですね。
 なお、外来語の長音(伸ばす音)には長音譜(ー)を使います。長音譜はダッシュ同様ハイフンから変換するか、他の文字に続けてハイフンキーで出すことができます。
 では、三点リーダとダッシュを使って例5を修正してみましょう。

<例5(修正済)>
 やばい……やばすぎる。
 太郎はゆっくりと――しかし心では思い切り焦りながら後ろへ後ずさった。
 ワルーは手にした金棒――いかにも重厚そうで殴られると痛そうな代物だ――を構えて、ジリッジリッと太郎を追い詰めていった。
 こんな感じになります。
 え? なんだか増えている?
 そうです、よくお気づきになりました。
 三点リーダ・ダッシュは原則的に2個1セットで使います。小説等ではつながっているのでわかりにくいですが、ちゃんと二個使ってあります。
 ブラウザや表示するスクリプトの機能、お使いのPCによっては完全につながらずに隙間が開いてしまうことがあります(特にダッシュで目立つことなのですが)。
 そういう場合も特に気にする必要はありませんのでなるべく二個セットで使ってください。
 なお、どちらも使いすぎると文章がみづらくなりますので適度な使用を心がけましょう。


感嘆符(!)と疑問符(?)

<例6>
「何で!?何で僕なんだよ」
 太郎は自分を勇者に選んだ神様を呪った。
 なぜ?戦いなんてまるで苦手な僕がなんで勇者に?
 しかし考えている暇も無く金棒はうなりをあげて襲ってくる!

 さて、続いては感嘆符(!)と疑問符(?)についての決まりを勉強しましょう。
 まずは上の例6に注目。
 ちょっと違和感がありませんか? なんだか文が詰まっていてきつそうな印象がありますよね。
 驚きや大声等を表し、俗に“エクスクラメーションマーク”とか“びっくりマーク”とも呼ばれる感嘆符。
 そして疑問や質問を表し、俗に“クエスチョンマーク”とか“はてなマーク”とも呼ばれる疑問符。
 この二つの記号にも決まった使い方があります。

1.疑問符・感嘆符の後は一文字文空欄を入れる
2.疑問符・感嘆符を三つ以上重ねて使わない
3.カギかっこを閉じる直前の文末でも、句読点のように省略する必要は無い
4.疑問符と感嘆符を重ねる場合は“!?”のように先に感嘆符を打つ

 大まかにはこんな感じです。
 疑問符や感嘆符の後には一文字分スペースを挟む事で、文章が見やすくなります。
 また、疑問符や感嘆符等の記号を三つ以上重ねると文章がかなりうっとおしくなってしまいます。
 同じ文章の区切りでも句読点と違って驚きや疑問という意味を含む記号なので、セリフの最後でも省略する必要はありません。
 また、驚きと疑問を同時にあらわすために二つの記号を重ねて使う場合もよくあります。
 この場合は形式上、感嘆符を先に持ってくるようにします。
 それでは、これらを踏まえて例6を修正してみましょう。

<例6(修正済)>
「何で……何で僕なんだよ!?」
 太郎は自分を勇者に選んだ神様を呪った。
 なぜ? 戦いなんてまるで苦手な僕がなんで勇者に?
 しかし考えている暇も無く金棒はうなりをあげて襲ってくる!
 どうです? 修正前と比べて見やすくなりましたよね。
 ちなみに、より見やすくするために一行目の最初の“!?”はあえて三点リーダに変えてみました。
 戦闘シーンや激しくストーリーが展開するシーン等、自然と記号の使用頻度が多くなる場所ではこのように表現方法を工夫して記号の使用量を調整するのもテクニックの一つです。


数字の書き方

<例7>
 1本のつるが部屋の天井からするすると降りてきた。
 それはまるで太郎を手招きしているようだった。
 太郎はつるを登り上の階へ移動した。
 そこは大広間だった。五つの像が部屋の中心を取り巻くように配置され、天井にはシャンデリアが立派な10本のアームを伸ばしている。
 扉は部屋の一辺にたった1つあるだけだ。他には窓も扉も見当たらなかった。

 基本辺の最後は数字の使い方について、です。
 まずは例7を読んでみましょう。
 読んでみるとわかると思いますが、この文章は英数字と漢数字が混ざって使用されているため読みづらくなっています。
 小説では、原則として数字は漢数字で統一して表記します
 これは通常本にする場合、小説は縦書きになるので英数字だと読みにくくなるからです。
 三桁以上の数字を打つ場合は、“一二三”等のように位を表す十や百などは省略してもかまいません。
 まず、これを基本形式として覚えましょう。
 その上でウェブ用の小説を書く場合の応用を身につけましょう。
 というのは、この形式はあくまでも本にする場合―つまり“縦書き”の小説に関するルールです。
 しかしながら、ウェブ上で発表する場合はブラウザの表示形式等の関係でたいてい“横書き”で発表する事になります。
 横書きで漢数字を使うと、場合によってはかえって読みづらくなる場合があるのです。
 なので、ウェブ用の“横書き”小説を執筆するときは、漢数字統一を基本とし読みづらそうに感じたポイントは英数字にする、という風に文脈をみながら対応していくといいでしょう。
 例7の場合はそれほど問題はなさそうなので、そのまま漢数字で統一してみます。

<例7(修正済)>
 一本のつるが部屋の天井からするすると降りてきた。
 それはまるで太郎を手招きしているようだった。
 太郎はつるを登り上の階へ移動した。
 そこは大広間だった。五つの像が部屋の中心を取り巻くように配置され、天井にはシャンデリアが立派な十本のアームを伸ばしている。
 扉は部屋の片隅にたった一つあるだけだ。他には窓も扉も見当たらなかった。
 数字の表記を統一した事で少し読みやすくなりました。
 なお、最後の行で“一”が短間隔で表記されて多少見づらく感じたので、少し直前の表現を変えてみました。


 これで小説を執筆する上での、大体の基本事項は学習できたと思います。
 これだけでも大分小説として形の明確な物が書けるようになった物と思います(多分)。
 第五章ではさらに小説を読みやすいものにするための、応用的なテクニックについて解説していきたいと思います。 


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